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坂口雅志の「グローバルトランスレーションアカデミー」を元受講生が絶対に勧めない理由(2)

そもそも「特許」は簡単か?

皆さんは特許の文章に触れたことがあるでしょうか? おそらく、この講座がターゲットにしているのは、特許について触れたことのない方々でしょう。しかし、高額な講座を受講する前に、これから自分がどういう文章を翻訳することになるのか知っておいた方がいいでしょう。

まずは東レの特許から。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のマイクロLEDを備えたマイクロLEDアレイ基板と、前記複数のマイクロLED間に設けられた隔壁と、前記マイクロLEDアレイ基板に対向する基板と、を有するマイクロLEDディスプレイ装置であって、マイクロLEDアレイ基板を下側にしたときの前記隔壁の断面形状が、逆テーパー形状またはT字形状である遮光部と、遮光部の側面に設けられた反射部とを有するマイクロLEDディスプレイ装置。

(特開2020-205417)

特に難しいものを選んだわけではなく、単に検索してトップに表示されたものを引用しただけです。もっと親しみやすいものも見てみましょう。以下はNintendo Switchに関する特許です。

【請求項1】
本体装置と、第1操作装置と、第2操作装置とを含む情報処理システムであって、
前記本体装置は、表示手段を備え、
前記第1操作装置は、前記本体装置に着脱可能であり、当該本体装置に装着されているか否かにかかわらず、当該第1操作装置に対する操作を示す第1操作データを当該本体装置に送信し、
前記第2操作装置は、前記本体装置に着脱可能であり、当該本体装置に装着されているか否かにかかわらず、当該第2操作装置に対する操作を示す第2操作データを当該本体装置に送信し、
前記本体装置は、前記第1操作装置から送信された第1操作データおよび前記第2操作装置から送信された第2操作データに基づく所定の情報処理の実行結果を前記表示手段に表示し、
前記第1操作装置は、前記本体装置に装着された状態において当該本体装置の所定面と同じ向きを向く面に、第1入力部および第2入力部を備え、
前記第2操作装置は、前記本体装置に装着された状態において当該本体装置の前記所定面と同じ向きを向く面に、前記第1入力部と同種の第3入力部、および、前記第2入力部と同種の第4入力部を備え、
前記第1操作装置および前記第2操作装置が前記本体装置に装着された状態において、前記第1入力部と前記第2入力部の位置関係は、前記第3入力部と前記第4入力部の位置関係と逆になる、情報処理システム。

(特開2020-205060)

これが特許の文章であり、こういうものを訳すのが特許翻訳というお仕事です。坂口雅志さんの「グローバルトランスレーションアカデミー」は、「中高生レベルの英語力」で特許翻訳ができる、英訳ができると宣伝しています。しかし、特許の文章というのはまず日本語からして専門知識がなければ理解できません。

しかも、日本語を英語に、英語を日本語に翻訳をするには、単に原文を読むだけなら意識せずにすむような深いレベルまで理解する必要があります。たとえば、日本語には単数形、複数形の区別がありません。ですから英語に訳すときは、これは単数なのか複数なのかといったことを意識しておく必要があります。こうしたことを正確に把握するには、技術知識などが必要になる場合もあります。要するに、必要となるのは英語力だけではありませんし、これが中学生レベルの英語力でできるなどという宣伝は非現実的であり、誇大広告と言うべきではないでしょうか。

(つづく)